2020年8月8日土曜日

指数n倍型レバレッジ・インバースETFの調整フローについて

  2020年8月3日の日経平均株価は前日比2.23%(485.38円)高と7日ぶりに大幅反発した。大幅上昇の背景の1つに指数のn倍の変動を目指すETFの調整フローがあったと見られる。

 本稿では、当該フローが市場に与える影響を分析する。

 なお、筆者は当事者でないため、あくまでも憶測の域を出ないという点、予めご了承いただきたい。


 指数n倍型ETFについては、シンプレクス・アセット・マネジメントが漫画で分かりやすく解説していたので、こちらを参照していただきたい所存。

 端的に言うと、「対象指標の、n倍プラスかマイナス方向に変動するETF」のことだ。

株が上がるときにはブル(レバレッジ)ETF


 ここでは、1日あたりの売買代金が特に多い「NEXT FUNDS 日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(1570)」、「NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信(1357)」に焦点を当てて分析する。以下、日経レバは1570、日経ダブルインバは1357と記載する。


 市場に出てくるフローは、「値動き調整分」と「追加設定・解約」の2つのフローに大別できる。

 以下、このフローについて解説する。


 値動き調整分は、1570が「日々の騰落率を日経平均株価の騰落率の2倍として計算された指数」、1357が「日々の騰落率を日経平均株価の騰落率の-2(マイナス2)倍として計算された指数」であるため、日経平均株価が1%上昇したら2%分、当該ETFの値動きを調整する必要が生じる。この調整を行わないと、下図のように運用成績に差が生じてしまう。


 なお、両ETFとも対象指標は日経平均株価だが、実際に投資するのは日経平均先物だ。


 具体的な数字で確認する。

 東証インディカティブNAV・PCF情報で毎営業日、各ETFの保有する個別銘柄・先物の内訳を公表している。8月7日に取得した1357のPCF情報は下記の通り。



 F5セルの数字は当ETFが売り建てている先物の枚数だ。B5セルが売り建てた先物を表している。日経先物の9月限(期近)となっている。G5セルは8月6日の日経先物、日中取引の終値を示している。日経平均株価の終値と異なるので注意が必要。この点、後ほど改めて触れる。

 先物の売り建玉数(29,197枚)にこの日の先物の終値(日中)をかけ、先物の単位1,000を乗じた数字は6,537億円となる。この数字はC1セルのFund Cash Componentの-2倍した数字と一致する。


 なお、東証の適時開示情報閲覧サービス(TDnet)で公表される数字と下記の通り一致する。

・受益権口数:D1セル

・純資産総額:C2セル



 純資産総額は日々の値動きとETFの追加設定・解約で変動する。

 つまり、「値動き調整分」と「追加設定・解約」で先物の売買フローが生じることとなる。


 値動き調整分の売買フローは下記の通りとなる。

 1357の純資産総額は20年7月末時点で約3,500億円だった。当日の設定・解約のフローが全くなかった場合、日経平均が1%上昇したら純資産総額は2%分(3,500×2%で3,430億円に)下落する必要が生じる(ダブルインバース=-2倍型なので)。1%上昇した3,500×1%との差額、35億円分の既に売り建てていた先物を買い戻す必要がある。対照的に1570は35億円分の先物を追加で買い建てる必要が生じる。

 7月31日は日経平均株価が前日比2.8%安となった。この場合、3,500億円の2.8%分にあたる約100億円分を追加で売り建てる。同月末の1570の純資産総額は約2,200億円だった。こちらも同様に2,200億円の2.8%分にあたる約62億円分、買い建てていた先物を売る必要が生じる。合計すると約160億円分。

 なお、7月末時点でレバ・ダブルインバース型ETFは以下の銘柄がある。これに、楽天日本株4.3倍ブルのような投信のフローも加わる。

 純資産総額は1357と1570が圧倒的に巨大だが…。


 追加設定・解約についてだが、これは単純にレバ型投信に追加設定があればその分、先物を買い建てる必要があるというものだ。

 ただ、1357と1570を積極的に売買するとされる個人投資家の逆張り志向が強いせいか、かなり強力なフローとなる。


 下のグラフは上記で説明した1357のPCF情報を時系列にしたものだ。H列は1357の純資産総額の前日比を表している。追加設定・解約がなければ、この数字はC列、日経平均株価の前日比騰落率に-2倍を乗じた金額に限りなく近くなる(日経平均株価と日経先物の終値に乖離が生じる場合はこの限りでない)。

 ただ、実際はかなりの乖離が生じていることが確認できる。この差が追加設定・解約によるものとなる。



 最も顕著だったのが8月3日だ。この日は冒頭に記した通り、日経平均が前日比2.23%高だった。ただ、1357の純資産総額は7.6%も減少している。2.23%×2=4.46%との差額、約3%分が解約分に相当する。金額に直すと100億円超、つまりこの2倍の金額分の先物売り建て分が買い戻されたことになる。

 ここで注意が必要なのが、1357と1570の追加設定・解約はT+1となることだ。つまり、8月3日分の追加設定・解約は前営業日にあたる7月31日に生じたものだ。

 7月31日は日経平均株価が2.81%安と6月15日(3.47%安)以来の下落率を記録していた。1357にかなりの利益確定売りが出たようだ。


 憶測だが、長らく続いたレンジ相場で久しぶりの大幅下落となったことから、個人投資家中心にかなりの押し目買いが入ったものとみられる。事実、1570の純資産総額は8月3日に前日比で約26%増加していた。

 



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これらのフローを含めた日々の相場への私見。

 体感的に、もみ合いが続く相場や出来高の少ない日には、これらのフローが相場に与える影響はかなり大きくなる。ただ、これらのフローと日銀のETF買い入れフローは、発動条件さえ満たせばある程度読みやすいものでもある。

 当然、これらを考慮して日々のトレードに行かす投資家も多いと思うが、重要なのはこれらを除外したフローがどうなのか把握することだろう。

 例えば、指数n倍型ETFの想定買いフロー、日銀の買いフローがあるにも拘わらず売り込まれるケースだ。

 この場合、日銀は別だがこの時点の逆張り的な取引は、近いうちにペインとなる可能性が高い。


 何故かよくわからないが買われている、売られているという状況をなくすためにも、機械的なフローは極力把握しておきたいところである。


 最後に、日経平均株価(現物指数)が15時に終えた後、残り15分間の先物の日中取引終了までに大きく先物価格が変動することがある。

 これは、ETFの売買が15時までの一方、ETFの先物建玉は先物の日中終値でn倍に調整する必要があるのも一因ではないかと思料している。


 おまけ、下のチャートは1357と1570の純資産総額を合算した数字と日経先物の出来高推移。


指数n倍型レバレッジ・インバースETFの調整フローについて

  2020年8月3日の日経平均株価は前日比2.23%(485.38円)高と7日ぶりに大幅反発した。大幅上昇の背景の1つに指数のn倍の変動を目指すETFの調整フローがあったと見られる。  本稿では、当該フローが市場に与える影響を分析する。  なお、筆者は当事者でないため、あくまで...