2020年5月28日木曜日

海外投資家の買い戻し(2020年5月第3週)

 東証と大阪取引所が発表した2020年5月第3週(5月18日~5月22日)の投資部門別売買状況によると、海外投資家は現物・先物合計で3,893億円を買い越した。現先合計で買い越しに転じるのは2020年2月第1週(2月3日~2月7日、7,864億円の買い越し)以来となった。

 久々の買い越しとあり、市場では「ついに海外勢が買い越しに転じた」、「これで勝つる」みたいな声が相次いでいた。
 この記事では、海外投資家の売買動向が日本株相場に与える影響を改めて確認すると同時に、先行き見通しの私見をまとめたい。
(このブログ、画像サイズの調整どうすればいいんだ…)
 上のグラフは、2012年以降の海外投資家の現先合計でみた買い越し・売り越し額と日経平均株価の推移を示したものだ。これだとわかりにくい。
 と言う事で、海外投資家の累積売買代金(2012年以降)と日経平均株価の推移を比較したのが下のグラフだ。
 この画像自体、何度もツイッターに投稿したので今更目新しさもないが、確認できることの1つに、海外投資家の売買動向によって日本株は短期的なトレンドを形成しやすいことが挙げられる。
 特に16~17年の3つの山は中々きれいだ。

 海外投資家の売買動向が何故、日本株にここまで影響を与えるのか。それは、海外投資家の日本株保有比率が高まっているからだ。
 上のグラフは株式分布状況調査を基に筆者が作成したグラフで、日本株を「誰」が「どれくらい」持っているか、時系列で示したものだ。紺色、外国法人の保有比率が上昇している。
 また、私はどの統計を見ればわかるのか不明なのだが、毎日の東証1部における売買代金のうち、6割程度を海外投資家が占めているとの統計もあるそうだ。

 話を戻す。

 2020年、年初から海外投資家は日本株を売りに売り越し、5月第2週までの売り越し額は8兆8,523億円にまで達した。2012年以降、海外投資家が1年間で売り越した最大額は13兆1,673億円だった。
 過去最高に近い売り越しペースに加え、アベノミクス以降の買い越しをほぼ売り切った状態(これは説得力が今一つ)の中、これ以上、海外勢が積極的に売るとも考えにくい状況であった・・・かもしれない。

 そして、ついに海外投資家は5月第3週に日本株を15週ぶりに買い越した。個人的に、もしかしたら売り物が出なくなったのではと考えたきっかけが、22日の先物の手口動向だった。
 この日は中国で全人代が開幕。それに先立ち全人代の報道官が香港での国家分裂行為などを禁じる「香港版国家安全法」を導入する([FT]中国、香港治安法制強化へ 米の反発必至)と述べたことで、日経平均は下落。前日比164.15円(0.80%)安の20,388.16円で取引を終えていた。

 「はいはい、香港ネタ乙」と言われちゃうとまぁその通りなのだが、全人代開幕と言う象徴的な日にアメリカに対してケンカを売るような格好となったわけで、通常であればリスクオフムードがもっと強くなってもおかしくないのでは、と考えていた。

 ただ、この日の先物の手口は立会取引で日経先物は売り方買い方共に1,000枚を超える傾きが見られず、立会外(J-NET)ではMUMSSが約1,200枚を買い越した程度だった。
 TOPIX先物についても同様。目立つ売り方はメリルリンチの約1,200枚程度。買い方は1,000枚を超える傾きが見られなかった。
 翌週月曜は米市場がメモリアルデーで休日だったが、全人代中のリスクオフを特に気にすることなく、先物の売り越しは限定的となっていた。
 その後、当日のNSで日経先物は20,260円まで下落したのだが夕方過ぎには反発し、その後1週間で1,800円近く上昇するに至った。
 この日の先物手口で外資系証券が大きく売り越していなかったことを見て、「もしかしたら…」と思った次第ではある。

 さて、ここからが問題だ。今後も海外勢の買い戻し、新規買いが続くかどうかである。

 上のグラフは、一緒にされやすい海外投資家の売買動向を、現物と先物に分けたものと日経平均株価を比較したものだ。
 やはり、これではわかりにくい。と言う事で、同じように累積売買代金と比較した。
 2019年、日経平均株価は8月末の20,704.37円から12月末の23,656.62円まで14.2%高となった。この間、先物の買い戻しと同時に現物の買い越しも目立っている。
 ただ、気がかりなのが17年以降、現物株は一貫して売り越し基調にあることだ。

 ここから海外の買いが続くとしたら、先物だけでなく現物が買い越し基調に転じるかも重要になってくると思われる。
 しかし、現物の買いは難しい。トレーダーをしていた経験からすると、ある銘柄の1日における売買関与率が30%を超えると、その銘柄は5%程動く印象がある。
 特に足許、日銀がわんさかETFを買ってしまったため、銘柄によっては浮動株が少なくなってしまった状態のものもある。

 仮に海外勢が現物を買うとしても、一度にたくさんではなく、時間をかけてゆっくりになるのではないかと考えている。

 それにしても、長いスパンで見て、海外がここまで現物を継続的に売っていたのは意外だった。これは、アジアの中での日本の位置づけが低下したためだろうか。
 コロナウイルスの被害が比較的軽微だったことや、米国において退職金の中国株投資を引き揚げるような話(米、中国株投資中止を検討 連邦職員年金で、現地報道)も聞かれているので、米中対立の悪化で何か変化があるのか注意してみたいところではある。
 なお、米退職金の中国株からの振り替え先はMSCI ACアジア太平洋インデックスだとのニュースもちらっと見た記憶がある。

 大規模緩和によるカネの暴力で買い越すことがあったとしても、現物は個別のファンダメンタルズが大きく影響する。いくらカネがあるからと言っても、ここから先の海外勢の日本株買いは進みにくいのではないかと、おぼろげながらイメージしている。

 

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